―― 基層は、どのように具象世界へ変換されるのか ――
私たちは日常の中で、机、本、人、部屋、木、社会といった、一つのまとまりとして立ち上がった世界を見ています。
けれど、その一つひとつを細部へたどると、さらに小さな構成があります。
物質には分子や原子があり、生命には細胞があります。人間の言葉や行動の手前には、身体感覚、感情、記憶、知覚、微細な反応があります。
では、無数の微細な差異は、どのように一つの「机」「文字」「人」「世界」として立ち上がるのでしょうか。
私はここに、ミクロとマクロを接続する変換の働きがあると考えています。
1.階層間生成変換機構
世界は、微細な単位が単純に積み重なって、大きな物体になるだけではありません。
微細な差異が互いに関係し、一つのまとまりを形成する。そして、そのまとまりが、次の階層では一つの新しい単位として働きます。
微細な差異 → 関係 → まとまり → 上位階層の単位 → 具象世界
この変換は一度ではありません。下位階層で形成されたまとまりが上位階層の一単位となり、そこで別の要素と関係し、さらに大きなまとまりを形成します。
点 → 配列 → 局所構造 → 形 → 物体 → 環境 → 世界
各段階で外形や縮尺は変わります。しかし、下位階層にあった関係が完全に消えるのではなく、形を変えながら上位階層の性質や働きの中へ引き継がれます。
この、微細な配列を上位階層の具象へ変換する連続的な働きを、本稿では「階層間生成変換機構」と呼びます。

2.本を読むときに起きている変換
本には、紙とインクがあります。
物質的には、紙の領域とインクの領域のあいだに配列や光の反射の差があります。その差が目に入り、線や形として認識され、さらに文字、言葉、文章、思想へ変換されます。
紙とインクの物質配列 → 光の差異 → 視覚刺激 → 線と形 → 文字 → 言葉 → 文章 → 他者の思想世界
紙とインクという物質的差異から、他者の高次の思想世界が立ち上がる。
途中で物質世界が消滅したのではありません。物質的差異が知覚と認識を通り、関係単位を変えながら段階的に統合された結果です。
人間の認知は、異なる階層の世界を接続する生成変換機構として働いています。

3.机は、どのように「机」になるのか
机も、最初から人間にとっての「机」として立ち上がっているわけではありません。
微細な物質的構成 → 分子・材料の構造 → 硬さ・質感・表面 → 形 → 一つの物体 → 「机」という認識 → 生活や社会における機能
微細な構成の違いが材料の性質として現れ、材料の構成が形を支え、その形が人間の認識によって「机」という一つの具象へ統合されます。
多くの場合、人は変換後の「机」だけを見ています。
けれど私は、机という具象を見ながら、その奥にある微細な配列と、各階層を通って机が立ち上がるまでの関係の筋を同時に保持しています。
見えている形だけを見るのではなく、形が立ち上がる以前の差異、配列、関係、運動と、そこから具象へ至る変換過程を見る。これが、私が基層を見るというときの重要な部分です。

4.ミクロとマクロの合致点
ミクロとマクロの合致とは、小さな世界と大きな世界の外形が似ていることではありません。
下位階層を成立させている関係の筋を拡張していったとき、途中で事実を失ったり、別の意味へ置き換えたりすることなく、マクロで実際に成立している構造へ到達することです。
形と縮尺が変わっても、生成を成立させる筋が通り続けている。これが、私の考えるミクロとマクロの合致です。
ここでいう「法則」は、一つの物理法則だけを指すものではありません。
差異が生まれる。差異が配置される。要素が関係する。関係からまとまりが生まれる。まとまりが上位階層の単位になる。そして、形成された全体が再び下位の働きを変える。
この、異なる階層を貫く生成原理です。
5.変換は一方向ではない
階層間生成変換は、ミクロからマクロへ向かうだけではありません。
ミクロの配列 → マクロの具象・意味 マクロの認識・意味・行動 → ミクロの配列変化
本を読んで思想を受け取った人が行動すれば、身体が動き、物質が移動し、人間関係や制度、社会の配置まで変化します。
物質から意味が生まれ、意味が再び物質を動かす。
したがって、階層間生成変換機構は、認知の中だけにある変換装置ではありません。
物質・感覚・認識・意味・行動を往復させ、異なる階層の世界を接続する生成機構です。

6.基層だけを見ていたのではなかった
これまで私は、自分は基層を見ているのだと考えていました。
けれど、今回あらためて分かったのは、私が見ていたのは基層だけではなかったということです。
基層の微細な差異が、どのように一つの具象世界へ変換されるのか。具象世界に生まれた意味や行動が、どのように再び基層へ作用するのか。私は、その階層間の変換と往復を見ていました。
これは、「知覚的現象世界と生成場の配列構造」「基礎配列の静動構造」「断線と再接続の基礎配列」「人間研究の基層配列的再検討」を貫いていた中心機構でもあります。
そして、前稿で述べた「次元往還能力」は、この階層間生成変換を、途中の関係の筋を失わずに往復して認知する力として位置づけることができます。
次元往還能力とは、異なる階層を往復する知性である。
階層間生成変換機構とは、基層と具象、物質と意味、ミクロとマクロを相互に生成しながら接続する働きである。
世界は、細部から全体へ向かうだけではありません。細部から全体が生まれ、全体が再び細部を変える。その往復の中で、私たちが生きている具象世界は、絶えず生成され続けています。

